履歴書詐称の法的性質
履歴書詐称の法的性質に関しては、履歴書内の虚偽記載が当該雇用契約上の主たる目的に反しない限り、民法上の債務不履行もしくは不法行為には当たらないとされる。従って、もし主たる目的に反しない履歴書詐称に基づく雇用契約の取消がなされた場合、当該取消行為は無効となる。なお当該取消行為自体を無効とせず、一応有効と解し、取り消しうる行為とみなすことも理論的には可能だが、雇用という重要な契約形態に鑑みると、一律無効と処理した方が、被用者の保護に資すると考える。
さて、履歴書の詐称は、私法上では、上記のように違法性が原則的にはないとされるが、刑法の立場はどうであろう。履歴書詐称に関する刑法上での法的処理を考える場合、まず私文書偽造罪の構成要件に該当するかが問題となる。私文書偽造罪は目的犯であるので、私文書偽造の構成要件に該当するといえるためには、行使の目的が必要となるが、履歴書の虚偽記載はそれをもって雇用契約の一資料としての不利益回避の目的を有しており、私文書偽造の構成要件には基本的に該当するといえる。しかしながら、被用者の私法上の保護の必要性及び履歴書の法的性質の特殊性から、履歴書の虚偽記載は、実質的に私文書偽造罪の保護法益に抵触しないと考える。その点で、履歴書の虚偽記載には、実質的に見れば、可罰的違法性がないといえる。